梅雨明け間近、私は、小雨の中、商談に向かっていた。程なく、雨があがり、綺麗な虹がかかった。咄嗟に写真におさめたいと思い、携帯を探した。ところが、あるはずのポケットにない!全身をチェックしたがやはりない。さっき食事したばかりのファミレスだ。忘れた場所はそこしか思い当たらない。急いで引き返す。元座っていた席に行くと、既に新しい客が座っていた。
「すみません。ここに携帯ありませんでした?」
「ありましたよ。でも、お店の人に預けました。」
と丁寧にその客の女性は応対してくれた。
私は、店員さんに事情を説明し、返却を促した。店員さんも了承したが、やはり、最近の時勢では、もう一段落、セキュリティ面での配慮が必要だと説明された。一度、携帯を鳴らしてほしい、と要求された。急いでいた私は、図々しく、先のお客さんに、
「すみませんが、〇〇にコールしてもらえませんか?でないと、携帯が私のであると信用してもらえなくて。」
「わかりました。かけてみます。番号、教えていただけますか?」
彼女は、快く引き受けてくれた。
その後、店員さんは、確認出来たと携帯を返してくれた。
「ありがとうございました。ほんと、助かりました。あ、そうか!着信履歴、削除しなきゃ、ですよね。」
「そちらの履歴も消された方がいいですよ。」
そう言った時、違う、そうじゃない。言うべき言葉を間違えてる。そう思ったら、
「いや、もしよかったら、このまま、残しておいて下さい。田中といいます。後日、御礼がしたいです。」
彼女は、戸惑いを見せた。
「やはり、ご迷惑でしたね。」
諦めかけた時、
「このまま、履歴残します。」
と思いもかけない返事がかえってきた。その瞬間、何かが決壊する音がした。
私は、もう一度、御礼を述べ、急いで商談へと向かった。そして、始まってしまった、と感じた。もちろん、携帯だけは、なくさないようにしっかりと鞄に確実にいれた。
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