放課後の教室
少年は、西陽が差し込む窓側の席で、部活終わりに帰り支度で忙しかった。支度が終わろうとした時、教室のドアが開いて、人が入って来た。同じクラスの女の子だった。
いきなりだった。
「これ、あげる。」
小さな包みを差し出すと同時に声をかけてきた。
「なに?」
「チョコレート」
「なんで?」
「クラスの女子で決めたの。全員誰かにあげるって」
「そうなんだ。」
「だから、あげる。」
「ありがとう。」
チョコレートを受け取った。バレンタインデーが近かった。だけど、その時の少年にはその意味がはっきりと認識できていなかった。
10年後、ふとあの日のことが思い出された。やはり、バレンタインデーだから、好意があったと考えるのが自然だ。後日、わかったのは、その日、女の子が言っていた女の子全員が誰かに渡すという縛りは、なかったということだ。つまり、渡されたのは、少年だけだった。だか、少年は、幼すぎて、そのことに全く気付かず、その後の返事をしなかった。もちろん、その後、その女の子との交流の進展はなく、そのまま、卒業した。
それから、さらに40年、少年は、初老の男に変わっていた。来年卒後50年で初めて同窓会が開催される。その知らせを受けた時、真っ先に思い出したのは、その日のやり取りだ。そして、女の子の姿。このことを彼女は覚えているのだろうか。そのことを確認すべきなのか。
だけど、卒後50年。一度も会ってない人だから、記憶の中の少女は、すでに67歳の老婆。当たり前だか、こちらも爺さん。やはり、確かめることはないだろう。淡い思い出として、自身の胸の中だけに留めおくことになる。そして、時々、思い出して、恋する気持ちになる。それで充分だ。









