ガラス窓の曇り
この2日間、ふたりは久々の再会にこころを踊らせ、幸せな時間を過ごした。しかし、時は容赦なく過ぎ去り、離別のときがやがて訪れる。女性は遠い南の街に帰る。男はそこに止まる。二人は、それまでの会話と何も変わらず、努めて明るく、他愛のない話をする。しかし、時間は残酷に、そして確実に経過し、特急列車の発車時刻まであと僅かになる。
女性は指定された座席に座る。男は車窓のそとに張り付く。伝えたいことはたくさんある。しかし、言わんとする言葉がどれも気持ちに匹敵する表現するとは思えない。
男は、発車間際に窓に人差指を当て、女性に注視するように身振りする。そして
「 スキ 」
を表裏を変えてカタカナでなぞる。今できる精一杯の表現。
すると、間髪入れず、女性がその上に綺麗な指で、
「〇」
と書き、同時にその意味の真正性を確かなものとするように何度も頷いていた。その頷く仕草に
もう男の体は歓喜の感情で満たされ、溢れる。そして、離れ離れになりたくない、そういう衝動が体を駆け巡る。発車のアナウンスが始まる。
気が付けば男の体は車内にあった。列車は静かに走り出した。まだ女性は男が列車に飛び乗ったことを知らない。なんと言って女性に会いに行こうか、女性の反応を想像しながら、その時の言葉を探す。女性の席まで、僅か数メートル。今までで一番楽しいアプローチである。そして女性はまだそのことを知らない。









