僕は困っていた。ラグパンのポケットに入れたはずの小銭がない。練習の休憩時間に飲みたかったのだが、自販機までは距離があり、急いで、集めた小銭がいざ投入となったとき、少し足りなかった。このまま、引き返すこともできたが、それでは、缶コーヒーにありつけないままだ。
僕は、自販機の近くにいた3人組の女の子達に咄嗟に声をかけた。
「すみません。お金、貸して貰えませんか?」
女の子達は、えーって顔で笑っていた。その中の1人が
「いいですよ。はい、どうぞ。これでたりますか?」
「ありがとう。足ります。」
僕は渡されたお金で缶コーヒーを買った。
「今度、見かけたら、返します。ありがとう。」
そう言うが早いか、僕は、その場から、グラウンドに向かって走り出した。走りながら、恥ずかしくて赤面した。それは二つの理由からだった。一つは、無茶振りで、お金を借りたこと、もう一つは、彼女が好みの女の子であったこと、だ。走りながら、恥ずかしさは、高揚感へと徐々に変わっていった。
それから、彼女に再会するのに、時間はかからなかった。学食でみかけ、すぐ、声をかけた。そういえば、名前も聞いてなかった。その時と同じメンバーと一緒にいた彼女に、
「この前は、ありがとう。あ、これ返します。」
「はい。」
受け取る彼女は、笑顔だった。僕は、やっぱり、可愛いと思い、一瞬、思考が止まった。動かない僕に他のメンバーの女の子達は、笑い始めた。彼女もハニカミながら、吊られて笑い始めた。ようやく、僕は、
「名前、聞いてもいいてますか?」
「いいですよ。」
「なんて仰るんですか?」
「あかりです。」
「燈さん?」
「今度、缶コーヒー、一緒に飲みませんか?」
そう言った後、失敗したと瞬間で思った。なんてくだらない誘い方をしたんだと、自分に落胆した。終わった、と思った。しかし、意外にも彼女の返事は、違った。
「奢ってもらえるなら、いいかも」
僕は、小躍りしたいのを必死に抑え、嬉しさを悟られないように「もちろん、ご馳走します。」
と返事した。後で考えると、缶コーヒーだぞ、ご馳走はないな、と思ったが、舞い上がっていた僕は落ち着いたふりで頓珍漢な台詞を真面目に言った。
こうして、僕は、彼女を誘い、生まれて初めての幼い告白をした。









