君のいない世界
私は、バツイチ。だが、今は最高の伴侶に恵まれ、幸せだった。貧乏だった時代から、私を支えてくれた妻は、貧乏には文句を言ったことがなかった。いつも温かいご飯を出してくれた。その後、私は、努力した甲斐があって、仕事に大成功を収めた。もう貧乏ではない。むしろ、その逆でお金のことなど、全く心配する必要がないほどの余裕ある生活が出来た。でも妻は、何も変わらず、贅沢なことは一切しなかった。だから、私は、そんな妻に報いるためにも、お金をかけた旅行や高価な食事、プレゼントなどを贈った。もちろん、妻は、喜んでくれた。しかし、それ以上、次を望むことはしなかった。私は、妻に頑張って手にした成功を味わって欲しかったし、何より、妻に褒めて欲しかった。すごいと言って欲しかった。決して妻は、それをしなかったわけではない。だが、決まってこう言った。
「いつもありがとう。本当に嬉しいわ。でも、なにより、あなたが嬉しそうにしていること、それをそばで見ていられること、それが一番嬉しいのよ。」
それを聞くたびに、幸せな気持ちになった。同時に物足りない気持ちにもなった。もっと我儘言ってもいいのに、なんでも叶えてあげられるのに、と。しかし、妻は、昔と変わらない態度だった。心底、私は妻が好きだった。大きな声で、
「大好きな奥さん」
と言えた。そして実際に、そう公言していた。まだまだ、これから、一緒にいろんな事をするつもりだった。予定だって常に3ヶ月先まで、びっしり立てていた。全て、妻と一緒、妻を喜ばせるための予定だった。
突然だった。妻の顔には、白い布がかけられていた。妻は動かなかった。事情を医師から、説明されたが、頭に入っては来なかった。いや、信じられなかった。目の前の妻の亡骸はとても現実のものとは思えなかった。何度も
「嘘だ」
と否定して、目を閉じた。目を開いたときには、違う現実がきっとあるに違いない。そう願って目を、開けた。しかし、それは叶わなかった。現実は残酷だった。なかったことにはならなかった。運命を恨んだ。
数ヶ月経った。部屋の中が少し広かった。そこら中に妻の痕跡がある。今でも、ぽっと笑顔が出てくるんじゃないか。それほど、いないことは現実とは思えなかった。私の世界は、凍りついたまま、一向に溶けない。おはようと声をかけてから、おやすみというまで、部屋の中で何度も名前を呼んだ。
「⭕️⭕️。」
涙が流れた。肉体がないことではない。会えないと思うしかないことが悲しかった。忘れたことにして、過ごそうともした。実際、他の女性ともお付き合いをしてみた。しかいし、⭕️⭕️以上の人には出会えなかった。あれほど、私のことを理解し、支えてくれた人はいなかった。今日はなんとか生きた。明日は生きていけるだろうか。そんな気弱な毎日だった。なにをやっても、妻のことは心から消せなかった。妻の声が耳に残ったまま、優しく語りかけてくれた。私は、忘れることを諦めた。私の中の妻とこれからも一緒に生きていこうと決めた。私は今も⭕️⭕️を愛している。そのことを忘れたことにしないで、背けないで過ごそう。少し、気持ちが楽になった。私は今も妻と一緒にいる。決して妻のことを消さない。今日も名前を呼ぶ。









