宗像市葉山クリニックの撫中です。毎朝散歩している人の光景、触れ合いを見ていて、触発されて思いついた短い話を記載します。すべて虚構です。
燈(あかり)
ほんのりとした燈(あかり)の中にその人は佇(たたず)んでいた。
誰を待っているのだろう。誰も待っていないのかもしれない。その傍らには子犬がいて、ご主人様のことを気にかけてちょこんと寄り添っていた。きっとその人の憂(うれ)いを感じていたのだろう。
私が近づくと、子犬から近寄ってきた。私が子犬に手を触れようとしたその時、
「今晩は」
とその女(ひと)から声をかけられた。
「今晩は。可愛いですね」
とぎこちなく、応じるのが精いっぱいだった。それ程、その女(ひと)は綺麗で、清楚なひとだった。
私は正面から、その人を見ることができなかった。
もうすでに恋していた。理屈じゃない。
その女(ひと)は微笑ながら、次の言葉を待っているように感じた。ただ、私から次の言葉は出なかった。
そして、少し間があった後、
「じゃあ、」
と短い言葉を発して私から離れようとしていた。
あの一瞬の間は、私からの返事を期待しているように思えた。確実にその気配を感じた。
それでも、私は言葉をかけられなかった。言葉を発することで、私の気持ちが透けて見られそうな気がして。
そしてその気持ちが邪(よこしま)なものであることを。
今後一生、この思いを告げる機会はないだろう。その人の後ろ姿を見送りながら、ある種の後悔を感じていた。
前方には変わらず、ほんのり、燈が周囲を優しく映していた。









